佐々木祐滋さんに聞く「SADAKO LEGACYに託す思い」

「SADAKO LEGACY」に託す思い
 ~広島から旅立つ平和の折り鶴を未来へ~

佐々木祐滋(ささきゆうじ)1970年6月6日生まれ。福岡県博多区出身。
2000年ロックバンド「GOD BREATH」を結
成。09年よりソロ活動をスタート。11年に大
好きな中野の地でオープンした「とんこつ屋
台 暖家」には、祐滋さんを「頼れる兄貴」と
慕う若者が連日訪れている。

 終戦からすでに68年経つ。が、これから何年先も、何百年先になっても戦争のむごさを忘れてはならない。1945年8月6日、原爆という悪魔が広島を襲った。当時2歳の佐々木禎子さん(以下サダコ)は命からがら火の海から逃れたものの、10年後に発症、白血病で12歳の短い生涯を閉じた。広島平和記念公園に折り鶴を支えるようにして建つ「原爆の子の像」はサダコがモデル。サダコの甥で中野区在住のシンガーソングライター・佐々木祐滋さんは、サダコを語り、歌を通じて「想いやりの心」「命の 尊 さ」を 訴 え るNPO法人『SADAKOLEGACY』を、父親の雅弘さん(サダコの実兄)と立ち上げた。そして昨年1月、佐々木親子の活動に賛同する同志と新たなスタートを切った。

 

被爆2世であること
よく通る声で丁寧に話してくれる。当事者にしか分からないであろう葛藤…被爆2世であると公表している祐滋さんは、26歳の時に音楽の道を目指し福岡から上京した。幼い頃から祖父母・父親に「禎子おばさん」について聞かされていたが、まるで雲の上の遠い存在。無論、音楽とサダコをシンクロさせようとは露程も考えていなかったという。転機は30歳。東京でサダコについて講演する父に同伴した懇親会での出来事。自己紹介を終えるや「サダコさんの歌をつくって歌わなきゃ」と口々に意見され逡巡していると、一人の被爆者に「あなたの身体の中にはサダコさんのDNAが入っているんだから」と言われ覚醒した。「ドーンと響いた。遠かったおばさんがグッと近くにきた瞬間」。その後「おばさんの気持ちになり」つくった楽曲『INORI』が2009年に完成した。2010年大晦日のNHK紅白歌合戦でクミコさんが熱唱したその曲である。『♪折り鶴を1羽折るたび つらさがこみ上げてきました だけど1000羽に届けば暖かい家にまた戻れる 願いは必ず叶うと信じて折り続けました……』。


▲サダコの家族。写真中央の母親に抱かれている女の子がサダコ

サダコおばさんの思い
病床でサダコが折った鶴は1300羽以上とも1500羽以上とも言われる。薬の包み紙等を針の先を使って1cm四方の鶴に仕上げた。それらは葬儀の席などでサダコの友だちに形見分けしたり、広島平和記念資料館に100羽程寄贈するうちに、佐々木家には5羽だけ残った。小さな折り鶴を眺めていると、やさしいおばさんの面差しが浮かび上がってくる。闘病中の8カ月の間、サダコは一度も「痛い」「つらい」という言葉を発しなかったそうだ。自分は二の次でいつも周りの人を思いやる心はどんな状態でも変わらなかった。うどんが大好物な長兄のために病院の食堂で毎日ご馳走してあげたり、ある時は、母親のために頭痛薬を買って腫れた足を引きずって届けたり。「お金はおばさんが受け取った見舞金から出していたそうです。自分の治療に使わなきゃいけないのに、当時は痛み止めが1回2100円、輸血は100ccで800円かかった。家の窮状を知っての行動だったんでしょうね」。知れば知るほどサダコの生き方に魂を揺さぶられる。「戦争反対とか核兵器排斥は当たり前の話。サダコのように人を想いやることが世界平和への早道ではないか」と気付く。さらに、残り5羽となった折り鶴を「世界5大陸に届けよう」と決意した。


▲2010年、NYに寄贈されたサダコ鶴

サダコ鶴を届ける
2007年9月、9.11同時多発テロの被害者に招かれ、遺品の「サダコ鶴」を1羽寄贈したのを始めとして、09年にオーストリアの平和博物館、そして昨年は念願のハワイ島真珠湾に手渡すことができた。実は、真珠湾への寄贈実現に骨を折ってくれた一人のアメリカ人がいる。クリフトン・トルーマン・ダニエル氏。かつて、原爆投下を命令したトルーマン大統領の孫である。雅弘さんが知人を介して知り合い、互いのこだわりを越えて平和への思いを一(いつ)にした。さらに祐滋さんは、広島・長崎両方のB29に唯一搭乗したレーダー士の孫であるアリ・メイヤー・ビーザー氏と出会った。昨年はダニエル氏、アリ氏共に日本に招き、広島・長崎の平和式典に揃って参加、被爆者と面談した。来日前、ダニエル氏は「罵声を
浴びてもすべて受け入れる。僕の祖父がやったことだから…。それでも広島に行きたい。この先平和につながるのなら」と話していたという。 サダコ鶴はあと2羽となったが、寄贈したい場所はいくつかある。現在、広島平和記念資料館に保管されているものが使えるよう交渉中だ。祐滋さんが願う場所は、長崎・福島・沖縄・中野。「広島と長崎って、実はつながっていない。一緒に声を出せば、もっと大きなメッセージが伝えられるのに」と話す。また、「広島・長崎の人と同じように放射能に苦しめられている福島」「戦争の傷跡を色濃く残す沖縄」「日本の中心地・東京の中でも僕たちの拠点である中野」に置き、広島とあわせて5県をつなげることが今年の目標だ。


▲真珠湾にあるアリゾナ記念館のビジターセンターヘサダコ鶴を寄贈


▲サダコの同級生たちが運動を起こして約2年半。多くの人の努力や善意によって完成した原爆の子の像の除幕式が行われたのは1958年5月5日のことだった。


▲NYでの素晴らしい出会い。ダニエル氏を囲んで、雅弘さん(左)、祐滋さん

子どもたちのために
「SADAKO LEGACY」の最大のテーマは、「子どもたちが笑って安心して暮らせる未来」。他者への想像力と想いやりの心をみんなが持てたら、どんな軋轢や争いも乗り越えていけるはず…と、「OMOIYARI講演活動」を実施している。周囲を気遣い続けたサダコのエピソードや、想いを込めた歌を届けに全国の小中学校を中心に廻り、今や延べ500校にも。中には少年鑑別所での講演もあった。一人の少女の話だが、鑑別所は保護観察か少年院かを見定める機関だというのに、その少女に限っては入所時からすでに少年院行きが決まっていた。「どうしてって聞いたら、親が引き取り拒否をしたって言うんです。19歳だから養護施設にも入れない。少年院という選択肢しかないと…」。ショックだった。子どもたちの周りには矛盾と大人のエゴ が 満 ち て い る。「この子たちに責任は負わせられない。親・先生・周りの環境のすべてを見直す機会になった!」。今はひたすら、「子どもたちに何かしてあげなきゃ」「未来の子どもたちへ想いやりの橋を渡したい」と誓い、前を向いてブレることがない。


▲2010年、大洲小学校訪問


▲B29のレーダー士を祖父に持つアリさんが暖家を訪れてくれた


▲暖家の常連だった芸人おにぎりさん(右)。コラボ企画「ゆーじとおにけん」をスタジオ・ナカノバからUSTREAM配信も。若者にもサダコの思いを伝えるべく活動

【とんこつ屋台 暖家(だんけ)】
中野5-48-8 平日17:30~翌2:00、土日祝
11:30~15:00 / 18:00~24:00 水曜定休
★昨年12月より、芸人おにぎりプロデュースの「どさんこ北海道喫茶室 中野本店」をオープン。クリームシチューや石狩鍋のランチが好評(平日のランチタイムのみ営業)

 

NPO法人『SADAKO LEGACY』
■東京本部:中野区新井1-21-6
 中野ビル2F TEL090-9151-8072
       FAX03-3820-3660
■代表理事:佐々木雅弘
■副代表理事:佐々木祐滋
http://www.sadakolegacy.jp/

これまでの活動
●2007/9 同時多発テロ被害者の会に招かれ、ニューヨーク州・トリビュートWTCビジターセンターにサダコ鶴を寄贈
●2009/3 NPO法人SADAKO LEGACYが内閣府より正式認可。翌年9月より本格的に活動開始
●2009/10 オーストリア東部のブルゲンラント州にある平和博物館にサダコ鶴を寄贈
●2010/5 ニューヨーク州・トリビュートWTCビジターセンターで正式な寄贈式典開催。この時、トルーマン元大統領の孫・ダニエル氏に出会う
●2010/7 佐々木祐滋『INORI』発売
●2010/10 広島平和記念公園でチャリティーコンサート開催
●2011/1 東京・六本木でSADAKO LEGACY主催のライブイベント開催
●2012/1 新体制による『NEGAIプロジェクト』始動
●2012/8 ダニエル氏、アリ氏を招き広島・長崎の平和記念式典参加
●2012/9 ハワイ州真珠湾のNatio-nal Park Service at Pearl Harborにサダコ鶴を寄贈(2013年5月に真珠湾ビジターセンターにて展示予定)
●2012/11 福島県いわき市の東日本国際大学で、学生が中心となって実施されたシンポジウムのテーマソング「つながる空」を佐々木祐滋が作曲(歌は手話シンガーの水戸真奈美)今年の活動予定(サダコ生誕70年)
◆書籍出版…雅弘さんが兄として執筆。サダコの物語を正確に遺すため、遺族初の書籍化となる。6月出版の予定
◆講演活動…継続的に全国の学校に平和教育をテーマに講演会と歌を届ける。また、行政に積極的な営業からの講演活動を推進
◆サダコ鶴寄贈…9/7沖縄市平和の日イベント式典にて寄贈予定。他に絵本出版予定のモンゴル、合作映画製作予定のイランへの寄贈を予定
◆サダコの命日(10/25)にイベント開催予定

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投稿日時 2013-02-04

カテゴリー おこのみっくすマガジン

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